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東京高等裁判所 昭和31年(ネ)2109号 判決

控訴人 鳴瀬富三郎 外一名

被控訴人 上城達雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人等の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出援用認否は、被控訴人において甲第一ないし第八号証は写を原本として提出し、証人上城九一郎の当審証言を援用し、乙第九、一〇号証は成立を認めると述べ、控訴人等において乙第九、一〇号証を提出し、当審における控訴本人鳴瀬富三郎の供述を援用し、甲第一ないし第八号証は原本の存在成立共にこれを認めると述べ、なお双方において次に記載の通り主張した外は原判決の事実摘示の通りであるからこれを引用する。

(被控訴人の主張)

被控訴人は株式会社大崎研究所平塚工場の株主であり、且つ右会社の取締役である。そして被控訴人は右会社を被告として土地所有権移転登記請求訴訟(横浜地方裁判所小田原支部昭和二九年(ワ)第一八四号事件)を提起したが、当初その代表者を代表取締役鳴瀬富三郎とし、同人を代表者とする右会社との間に訴訟を進行させた。ところがその訴訟の途上において、右会社は既に昭和二四年九月一五日に解散し、上城九一郎がその清算人に選任せられ同人が会社の代表者であることが判明した。そこで被控訴人は右訴訟事件の被告会社の代表者を上城九一郎と訂正の上訴訟を進行した結果、右事件は被告の認諾によつて終了するに至つた。しかし右会社においては未だに右の解散及び清算人選任の登記をしていないため、前記の認諾調書だけでは所有権移転登記をすることができないので本訴に及んだものである。

(控訴人等の主張)

被控訴人が株式会社大崎研究所平塚工場の株主であり、且つ右会社の取締役であること、控訴人鳴瀬が右会社の代表取締役、控訴人石出がその取締役であることはいずれもこれを認める。

理由

当裁判所も被控訴人の本訴請求を正当と判断するものであり、その理由とするところも、原判決の理由において引用する甲第二、第四、第六号証は、原本の存在成立共に争いのない右甲各号証と訂正し、控訴本人鳴瀬富三郎の当審供述中原判決の理由における事実認定に反する部分はこれを信用することはできないと附加し、なお次の通り訂正追加する外は原判決の理由の説示と同様であるからこれを引用する。

一、控訴人鳴瀬が株式会社大崎研究所平塚工場の代表取締役であり、控訴人石出及び被控訴人がいずれも右会社の取締役であることは当事者間に争いのないところであり、右会社の昭和二四年九月一五日の株主総会において、控訴人鳴瀬はその議長兼出席取締役、控訴人石出はその出席取締役であつたことは、本件口頭弁論の全趣旨に徴し当事者間に争いのないものと認められる。

二、株式会社が解散した場合は、合併及び破産の場合を除くの外、本店の所在地においては二週間、支店の所在地においては三週間内に解散の登記をすることを要するものであり(商法第四一六条、第九六条)、その登記は総取締役及び総監査役の申請によるべきものである(非訟事件手続法第一九五条)。従つて右登記は総取締役及び総監査役の協力による共同申請によつてなさるべきものであるから、取締役及び監査役は相互に右登記に協力し共同申請をなすべき義務を負うものと解するのが相当である。従つて若し会社が株主総会の決議によつて解散したにも拘らず、取締役及び監査役中その解散登記の申請に協力しない者があり、他の共同申請義務者たる取締役及び監査役において解散の登記を完了することができないときは、右不協力者に対し訴を以て右登記申請の意思表示をなすべき旨を請求し得るものと解するのが相当である。

故に右解散のことを争つてその登記申請に協力しない控訴人等に対し右登記申請手続を求める被控訴人の本訴請求は正当であり、また株式総会において解散の決議があれば、その議事録に署名をしてこのことを確認証明すべき立場にある議長及び出席取締役において右決議のことを争いこれを否定するにおいては、他の会社取締役において右否定者に対し、右決議の有効に存することの確認を求め得べきこともまた明らかであるから、被控訴人の控訴人等に対する確認請求また正当としてこれを認容すべきである。

よつて右被控訴人の請求を認容した原判決を相当とし、本件控訴はこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条、第九五条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 薄根正男 奥野利一 山下朝一)

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